ソイツの服装は、ティシャツにジーンズ上下。


(――こんな格好じゃ寒い訳だ)

俺は何かにつけて、この男性の異常な震えを正当化しようとしていた。

何だか判らないが、俺にその震えが別時点来ている気がしていた。

俺の霊感が、何かあると判断したのかも知れない。

俺の初アルバイト料で買ってみずほに贈ったコンパクトが、何だかおかしいんだ。

だから余計に彼のことが気になるのかも知れない。




 俺はみずほのコンパクトをそっと開けた。

其処の文字を確かめるためだった。


《死ね》
それは赤い口紅で書かれていた。
同級生の町田百合子が、俺をサッカーのレギュラーにさせなくするために……
たったそれだけの目的のために、クラスメートを焚き付けてみずほを自殺に見せ掛けて殺したんだ。

みずほは成績優秀な生徒だった。
みんなはライバルが減るのが嬉しくて、囃し立てたらしいんだ。


『自殺するなら早くしろ!!』
と――。

俺はみずほの落ちた近くの植え込みでこのコンパクトを見つけた。

俺はあの時、この殺意に満ちた言葉によって霊感に目覚めたんだ。

だから、ついつい頼ってしまうんだ。
このような場合は……


俺はコンパクトをそっと閉じ、握りしめた。

目の前にいる彼を見つめるために。




 ジージャンの釦は掛かっていなかた。

そのはだけた部分から何やら見えていた。


俺はそれが気になりそっと胸元に目をやった。

そこには、目映く光るゴールドスカルがあった。

でもそれは所々が鈍く不気味に光っていた。


俺は仕事のことより、訪問者がしているゴールドスカルのペンダントヘッドが気になった。

何か異様な雰囲気を醸し出していると思ったからだった。


俺は又恋人だった岩城みずほのコンパクトを握り締めながら、そっとそのペンダントヘッドに触ってみた。


(――あっ!?)

俺は震え上がった。
それは大分以前に亡くなった、俺の中学時代の親友・木暮悠哉(こぐれゆうや)の兄の意識だった。




 ――首が落ちている。
いや、落ちて来た。
それも突然俺の目の前に降ってきた――。

……それはデパートの従業員用エレベーターの前で起こったスキンヘッド男性ボーカル変死事件の一部始終だった。


(――えっー!?
これが事件の真相?

――そんなー!?)

俺はガタガタ震えて……

みずほのコンパクトを再び握り締めていた。


(――みずほが見せてくれたのか?

――そうだ。
きっと……

――だから、だからあんなに気になったのか?

――そうだよな。
木暮はみずほにとっても同級生だったんだ……)




 俺は何時の間にか泣いていた。
まだまだ事件は終わっていないことに気付いて。

叔母さんの事件も有美の事件も、みんな未解決のままだったのだ。


それにこの事件……


(――ゴールドスカルの中の意識が本当だとしたら、ストーカーは目の前にいるコイツしかいない!!

――コイツがあの時のストーカーなのか?

――帽子を目深に被って犯行に及んだ、木暮の兄貴の首を落とした犯人なのだろうか?)


ゴールドスカルの中の意識。
それはきっとダイイングメッセージに違いない。
俺はそう思った。




 その意識が俺に向けられたものではないこと位百も承知だ。
でも、それを伝えられる霊感を持ったこと。
それを生かすかどうかは俺の判断に任されたと思った。

木暮悠哉の兄のことは丸っきり解らない。
ましてや、目の前にいる彼のことも知るよしもなかったのだ。