「スイマセン……、本当に此処探偵事務所ですよね?」

ソイツはまだ言っていた。

あまりにも狭い探偵事務所でビックリしたのか?
それともビビったのか?

入って来た時よりもっと動揺しているようだった。


こんな所で大丈夫か?
何かヤバそう……

そんなこと考えてる気配がしてた。


それでも俺はソイツが気になる。
何か隠し持っている気がしていた。




 (――本当に挙動不審?

――警察に電話……)

内心では、俺の方がビクついていたのかも知れない。


目の前に凄腕の元刑事が居ると言うのに。


でも俺はソイツがどうしても気になる。
確かに見た顔だった。


(――一体何処で会ったんだ)

俺は情けない位動揺していた。


アルバイトだが、探偵の端くれには違いない。
それなのに、名前さえ出て来ない。


『記憶力が探偵の明暗を左右する』
叔父さんの格言だ。

だから俺も鍛えていたのに……




 世の中にはこんなひ弱そうな奴もいるのか?
そう思いたくなるような物腰だった。


ソイツを良く観察してみたら、何だか取り越し苦労だったようだと気付いた。


(――俺、何を気にしてたんだろう?)

俺は又……
悪いと思いながらスキンヘッドの頭を見つめた。


(――何だろう?

――この不安は何処から来るのだろうか?)

俺は自然とみずほのコンパクトに手を持っていっていた。




 何処にでもいそうな顔立ち。
この頭じゃなけりゃ目立つ存在でもない。

そんな若者が……
と言っても俺も若者の端くれには違いないのだが……

そんな若者が震えて、叔父さんを頼っている。
似つわしくないスキンヘッドの頭を抱えて。


そう、彼はスキンヘッドにピアスだらけの顔。
どっから見ても、強面だったのだ。


だから、さっきまでこっちがビビっていたのだった。


(――でもこの男どっかで……

――確かにどっかで会ったことが……

――でも思い出せない)




 この探偵事務所のことは調べているようだった。

何処から噂を聞いたのだろうか?
叔父さんが元刑事だったことまで知っていた。


(――きっと、叔父さんを良く知っている人に紹介されたんだ)
俺は勝手にそう思い込んでいた。


ソイツはそんな俺に目配せしながら、携帯電話の画像を叔父さんに見せていた。


「この子の浮気現場を押さえてください」
やっとそう言った。
そう……
やっとだった。
ソイツは本来の目的をやっと言えたのだった。