足音はイワキ探偵事務所の前で止まった。


(――やったー!?)
俺は小さくガッツポーズを取りながら、叔父さんに目配せをした。


(――これで一息吐けるかな?)
そう思いつつ、叔父さんを見た。

叔父さんもホッとしたらしく、口元が少し揺るんでいた。


(――良かったー)

俺はその向こうに依頼人が立っていることを確信しながら、少しだけ動いたドアノブにおもむろに目をやった。

そんな状況でも、探偵としてのプライドは捨てたくなかったのだ。


まだ駆け出しのアルバイト探偵だけどね。




 そっと、入り口に目だけ動かす。

すると、僅かに開いたドアからスキンヘッドの頭だけが見えた。


――ギョッ!?

俺は思わず叔父さんと顔を見合わせた。


(――えっー、コイツヤバイヤツかも知れないぞ)

俺は自然と身構えた。

でもソイツは頭だけ中に入れてペコペコとお辞儀をしていた。

それがあまりにも似合わな過ぎて、俺は思わず肩の力を抜いていた。


(――どんだけ緊張してたんだ?)
自分の行動が可笑しくて、照れ隠しにソイツの頭に目をやった。


(――それにしても……

――この寒空にスキンヘッドはきついな)

俺はさっき動揺したくせに、呑気にそんなことを考えていた。




 (――それにしても似合わないヤツだな。

――もしかしたらパンクかな?)

そんな思いで見事に刷り上げられスキンヘッドを見ていた。


(――でも何でこんなにおどおどしてるんだ。

――もしかしたらヤバイヤツに追われてる?

――だから此処に来たのかな?)

俺は入って来た時から落ち着きを欠いていたヤツが、ただ者では無いと思い始めていた。


(――きっと怖い思いでもしたんだろう

――こんな頭だったらいちゃもん付けらるよ)

でも結局俺の思考は其処に落ち着いた。



 明らかに挙動不審。

何にそんなに怯えているのか判らないが、大きなものを抱え込んでいることだけは確かのようだった。


(――そうだよな?

――だから此処に来たんだよな?)

ソイツを見ながら、事務所を見回した。

何時もと変わらない日常が、スキンヘッドの男性の登場で変わりつつあることを俺は感じていた。


俺は何だか判らないが、妙にソイツが気になっていた。


俺がスキンヘッドに動揺していることは明らかだった。


それはが何なのか今はまだ判断が付かなかったが、とてつもなく大きなものだと言うことだけは明らかなようだった。




 (――スキンヘッドには今なって来たのだろうか?)

それはあまりにも見事な剃りっぷりだった。


(――それにしてもこんなツルツル頭見たことないな。

――きっと腕のいい床屋さんなんだろうな?)

俺はソイツの頭を見ながらしきりに感心していた。


俺が見ているのに彼は気付き、頭に手をやった。

でもソイツは妙なことを言った。


「あぁ、これ? さっき気が付いたらこんな頭になっていたんだよ」
と――。


(――えっ、嘘だろ?

――嘘に決まっている)


俺はそう思っていた。
第一、知らない間にそんな頭になっていたとしたら怖すぎる!?


(――でも、もしかしたら本当かもな?)

そう……
ソイツの怖がり方が尋常ではなかったのだ。

それは単なる寒いだけではなさそうだ。
確かにこの時期にはなりたくない頭だった。




 (――何かあったのかな?

――悪い話じゃなけりゃ良いけど)

俺はそう思いながら、ソイツを見つめた。


「スイマセン……、此処探偵事務所ですよね?」

部屋の中をキョロキョロと見回しながらやっとソイツは言った。

最初は挙動不審者かもと思った。
でもソイツは尚もしきりに頭を下げていた。

俺の眼にはツルツル頭には似合わない真面目そうなヤツに写った。


(――コイツ案外いいヤツかも?)
身なりから想像した人物とはかなりギャップのある若者だと俺は思った。

若者……
歳は俺くらい……
いや、もう少し上なのかな?


(――あれっ……コイツどっかで見た?

――それとも知り合い?

――でもこんなヤツ居たかなー?)
俺は首を傾げながら、似合わないスキンヘッドの男性をずっと見つめ続けていた。