「ところでさー。原っぱって此処出身だったっけ?」
誰かが言った。


(――始まったー!)
って思った。

葬儀は約一週間前だ。
当然と言える発言だったのだ。


(――あれっ!?)
そう言えば不思議だ。
斎場は此処だった。

ふとそんな疑問が又思いが浮かぶ。


「違うと思うよ」
もう一人が言った。

その言葉に興味を持った俺は更に聞き耳を立てた。


「確か此方に母親が住んで居るとか居ないとか?」


「どっちなのよ」


「うーん、解らない」


「でも情けない無いね、あんなチョンボで死ぬなんて」


「チョンボ?」


「そうだよ、大チョンボ。バスから降りる時に何かが挟まって引き摺られたってことらしいよ」


「へー、知らなかった。私全く興味なかったからね。でも一体誰から聞いたの?」


「確か麻衣(まい)だった。そうよね麻衣?」


「えっ、何の話?」


やっと登場した麻衣と名乗る女性。
彼女だった。


「さっきから何の話してるの?」


「だからさー、原っぱがどんな死に様かってことよ」




 「止めようよ、そんな話。お酒が不味くなる」
あっけらかんと麻衣が言う。


「あらいいの? 確か麻衣って原っぱの彼女じゃなかったっけ?」


「変なこと言わないで、彼が気を悪くするわ。もしかしたらあんた達ね。デタラメな噂流したのは?」


「デタラメねぇ」
そう言った女性は笑っているようにも思えた。


『実は俺の彼女、原田の恋人だったらしいんだ。何だか気になってさ。だから君達が何か知っているのかなと思ってさ』
一週間前此処でそう言ってた麻衣の彼氏。
噂の出所はやはり彼女達の誰かなんだろうか?




 でも俺は知っている。
ボンドー原っぱの彼女が誰なのかと言うことを。
それは麻衣と名乗る女性だった。


(――あれっ、本当にそうなのか?

――携帯の写真は隠し撮りだったっけ?

――そうだ、ボンドー原っぱの言葉を鵜呑みにしただけかも知れない?)


俺は急に意気消沈した。




 「そう言えば麻衣? 仕事は大丈夫なの?」


(――仕事!?

――そう言えば、売れない時期を支えてくれたとか、だったな。

――彼女の仕事って一体なんだ?)


「あっ、大丈夫よ。母が行ってくれてるから」
麻衣はそう言った。


(――へえー、親子でできる仕事か?

――そう言うのいいな)

俺は単純にそう思っていた。
次の言葉を聞くまでは……




 「やっぱり美容師は良いわよね。麻衣のとこ親子二代だから、試験も簡単だったんじゃないの」


「まあね、だって小さい時から叩き込まれていたからね」
さも当たり前のように麻衣が言った。


(――へえー、美容師か?

――そう言えば叔父さんが、ヒモのことを髪結い屋の女房とか言っていたな。

――昔っからの言い伝えらしいけど、今でもそうなんだ)

俺は麻衣を親思いの良い奴だと思った。


でも……
次の瞬間、あのボンドー原っぱの言葉が脳裏をかすめた。




 スキンヘッドには今なって来たのだろうか?
あまりにも見事な剃りっぷりだった。


(――それにしてもこんなツルツル頭見たことないな。

――きっと腕のいい床屋さんなんだろうな?)

俺はあの時、ソイツの頭を見ながらしきりに感心していた。


でもソイツは妙なことを言った。


『気が付いたらこんな頭になっていた』
と。


(――嘘だろ?
嘘に決まっている)

俺はそう思っていた。
第一、知らない間にそんな頭になっていたとしたら怖すぎる!?


(――でも、もしかしたら本当かもな?)

そう……
ソイツの怖がり方が尋常ではなかったのだ。


(――そうだよ。
美容師でもスキンヘッドは出来る。

――えっ、嘘ー!?)

次の瞬間俺は震え上がった。




 「あっ、あっー!?」
俺は大きな声を張り上げて、男に戻っていた。


「えっ何? 何!?」


「今の何!?」

店内が急に騒がしくなった。


(――あ、ヤバい!?)

そう思っても後の祭りだった。


木暮も俺の態度に目をひん剥き、声も出ないほど驚いていた。
俺は我に返り、慌てて木暮を連れて外へと飛び出した。


店内中に、男子禁制の女子会に潜入したことがバレバレになる。
それでも俺はそうさずにはいられなかったのだ。