「瑞穂どうした?」
木暮が言う。


「お前の兄貴と同じ頭をしたヤツのことを思い出したんだ」

俺はワナワナと震えながら、此処を訪ねた本当の目的を語り始めた。


勿論しどろもどろだ。
自分で何を言ったのかさえ判らない。


それでも俺は必死だった。
何としてでも木暮に事件の真相を伝えなくてはいけないと思って……




 「もしかしたら、原田とか言わなかった?」
木暮が言った。


(――えっ、何故名前を知っているんだ。

――もしかしたら兄貴の知り合いか何かか?)

俺はそう思いながら、木暮の次の言葉を待った。


「もしソイツだったら、この前電話をくれた人だ」

木暮はそう言いながら、その時書いたと言うメモを固定電話の傍から持ってきた。


(――スキンヘッド……

――ストーカー……)

そう読める走り書き。


木暮もきっと震えていたのだろうか?
その文字は乱れていた。




 この探偵事務所のことは調べているようだった。

何処から噂を聞いたのだろうか?
叔父さんが元刑事だったことまで知っていた。

きっと、叔父さんを良く知っている人に紹介されたんだ。

俺はあの時勝手にそう思い込んでいた。


(――そうか!?
そうだったのか!?

――木暮が教えたのか!?)


でも木暮はその男性が殺されたボンドー原っぱだとは知らなかった。


「ボンドー原っぱ!? えー、兄貴のことじゃ無かったのか!?」

やっと気付いた木暮は自分の書いたメモを見ながら震えだした。




 「やっぱり……」

木暮が携帯を見ながら言った。


「やっぱりって?」


「ほら此処」
木暮が指し示した携帯の履歴には原田学の文字があった。


「だからさっき瑞穂に、原田って言わなかったって聞いたんだ」


木暮は兄貴の携帯電話を固定電話の傍に置いておいた。
もしかしたら木暮敦士に纏わる情報が入って来るかも知れないと思ったからだった。


「もしかしたら、原田学は兄貴の仲間なのかな?」

その時俺もピンときた。


「そうだよ。原田はストーカーなんかじゃない。きっと仲間なんだ。だから名前が登録されていたんだ」
二人はほぼ同時に言っていた。




 「さっき瑞穂がスキンヘッドだと言った時、もしかしたら兄貴のことか? なんて思ったんだ。だけど、その原田ってヤツが本当にスキンヘッドだったとは……」


(――そうだった。

――お前の兄貴と同じ頭をしたヤツのことを思い出したんだ。

――そう俺が言ったから、もしかしたら、原田とか言わなかった?と、木暮が言ったんだ)




 俺達はただ木暮の兄貴の携帯の写真と俺がボンドー原っぱの許可を得て入れさせてもらった写真を交互に見て震えていた。
それ以外やることはなかった。

兄貴は確かにこの時は金髪だった。
照れくさそうでいて、優しさ溢れる笑顔だった。


「兄貴のこんな顔初めて見たよ」
木暮がポツリと言った。