俺はデパートの従業員用エレベーターの前で亡くなったロック歌手・木暮敦士の弟を訪ねることにした。

ソイツは木暮悠哉と言って、俺の中学時代の親友だった。


サッカー部のエースになると言う、同じ夢を見ていた仲間だった。
彼も俺同様に身長が低かったが、パワーだけは超一流だった。

でも兄貴の不遇の最期を見て、意気消沈してサッカーを辞めてしまったのだ。
結果俺がエースになった。
もし……
そいつが残っていれば、俺は……
そんなことを俺は何時も考えていた。




 木暮は俺とみずほの付き合い出したいきさつを知っていた。
だから、みずほが殺されたと解った時物凄く腹を立ててくれたんだ。


俺はどうしようもなくて、事件の全てを木暮には話したんだ。

千穂の俺に対する恋心まで話したら……


『それは感じていた』
ダメ出しにそう言われてしまった。


俺はどうしょうもなくなって、全てがキューピッド様をもてあそんだ結果だったとも打ち明けていた。

今思うとどうかしていたと思う。

なぜあんなにムキになったのだろ?

それはきっと、俺が木暮を頼ったからなのだ。

木暮は確かに俺の親友だったんだ。

だから聞いてもらいたかったんだ。

だから余計に自分を正当化したのかも知れない。




 玄関のチャイムを鳴らすと、木暮が飛んで来た。


『木暮の兄貴のことで話がある』
と、電話しておいたからだと思うけど。

でも流石にボンドー原っぱのことは言えなかった。


「兄貴の話なら、此処がいいと思って」
木暮はそう言いながら、仏間の襖を開けた。


其処には小さな仏壇に納められた位牌と写真があった。


真っ先に木暮の兄貴の遺影に手を合わせる。
それが礼儀だと、家を出る前に母に教えられた。
合掌しながら、まだまだ未熟な自分に気付いた。


(――母さんありがとう)
妙に素直な自分の出現に少し戸惑ってはいた。




 目の前の写真の木暮敦士は金髪では無かった。
茶髪のロン毛だった。


それはあのゴールドスカルに触れて見た、意識とは少し違っていた。


「あの金髪じゃ?」


「ん。……あ、そうそうデビュー前に金髪にしたんだそうだ。でもこの茶髪は本当は違うんだってさ」


「え、何が違うの?」


「兄貴は介護ヘルパーだったんだよ。仕事にこんな頭じゃいけないらしくてさ、鬘なんだって」


「確かロックだったよね?」
俺の質問に木暮は頷いた。


「鬘で大丈夫か?」

俺は頭の中で、ボンドー原っぱのパフォーマンスを思い出していた。




 舞台狭しと暴れまくる彼がもし鬘だったら……


(――踊りまくっている内に鬘がポロリ……)
想像しただけで可笑しくなってきた。

でも俺は必死に笑いを堪えていた。
此処で笑ったら失礼過ぎると思ったのだ。


でも木暮は俺の変化に気付いたようだった。


「瑞穂。もしかしたら……、鬘がポロリなんて想像した?」

いきなりの直球で俺は慌てて……
それでも仕方なく頷いた。