「あーあ、もう、やだあー」


目の前で突然そんなことを言い出したから、どきりとしてしまう。


「竜希、英文和訳見てくださーい」


姫川のノートを受け取り、視線を走らせる。


「……できてる」


目の前の男にノートを放り投げて返す。


「まじ? やたっ」


あたしには眩しいくらいの笑顔を見せてくるから、あたしは姫川から顔を逸らす。


やればできるんじゃない。今のあんた、すごく可愛い。


喉まで出かかった言葉を必死に飲み込む。


素直じゃない。


「……何してんの?」


気がつくと、椅子に座っているあたしの目の前に姫川が立っていた。さっきの眩しい笑顔は既に引っ込んでいて、今は真顔だった。


「何、あたしと別れる気でもなった?」


やだ。離れないで。


思いもしない言葉が口から出て、本音は奥に閉まったまま。


あたしを見下ろす男を目の前にすると、どうしても悪態をついてしまう。


「こんなちっぽけなことを気にするあたしなんか嫌でしょ。自分より小さい女の子の元に行ったらいい」


例えば、さっきあたしに勝てると言っていたあの子とか。


嫌なのに。行って欲しくないのに。


「……そうだね、その方がお互いのためかもね」


目の前が一瞬真っ暗になった気がした。


ああ、あたしはなんてばかなんだ。


悪態をついても目の前の男ならわかってくれると思っていたあたしは、甘えていただけだ。


愛想尽かされても仕方ない。


付き合い始めて本音を隠して、姫に代弁させる、愚かな竜だ。