俺は小さい頃に母さんをなくした。
父さんと二人で暮らしていたけど、生活が苦しくなってきて父さんは俺を自分の父にあたる祖父母の家に預けた。
祖父母のところには、「神桜」という桜の木がある。
その木は願い事を叶えてくれるといわれている。
ただし、願い事は一つだけしか叶えてくれないそうだ。
「空」
あぁ、今でも思い出す。
会いたい。
でも、会えない。
「…ら…」
「そら…」
だらか、呼んでる?
「空!」
「あぁ?」
「あぁ?じゃねーよ」
顔をあげながら、
「有亜かよ」
「かよってなんだよ、かよって」
こいつは、加宮 有亜(かみや ゆうあ)。
俺の友達で、明るくて元気なやつだ。
ただ、時々うるさくてイラってくるときがある。
「おい、今なにを考えていた」
「別に」
なんだよそれって顔をしている。
あ!と突然何かを思い出したという顔になり
「なぁ、知ってるか?」
「なにをだよ」
ニヤリと笑いながら知らないんだ〜、いう顔してきて、イラっときた。
「早くいえよ、どうせ、ショーも無いことなんだろ?」
「うわー、ひでーな」
泣いているふりをしながら言う。
めんどくせーな、おい。
「わかったいうよ、だからそんな顔すんなよこえーから」
「なら最初かそうしろ」
「今日、転校生がくるらしいんだよ」
「転校生?こんな時期にか?」
「な、めずらしいだろ」
めずらしいもなんも、いまやっと新しい学年にかわって、一週間たったくらいだぞ。
「そうだな」
キーンコーンカーンコーン
チャイムがなって有亜は自分の席戻って行った。席に座っても転校生の話でみんな盛り上がってる。でも、俺はそんなことどーでもよかった。そんなことより、俺は大事なことがある。
今日でもう2年が経つ。
ガラガラガラガラー
「ほらー静かにしろー」
「せんせー転校生くるだよんなー?」
「男ー?女ー?」
男子のバカどもが騒ぐなよ、うるせー。
「女だ」
「よっしゃー」
「静かにしろ、ただし遅れるそうだ」
「えー、マジで」
はぁー、女か…。
俺は男の方がよかったな、まだ。
「空」
あぁ、思い出す。
思い出してしまう。
強い風が吹き、窓から一枚の桜の花びらが入ってきて俺の手のひらにのった。
桜。
あぁ、あの時も初めて会った時もこんな桜が満開の日だったな。
なぁ、未花。