「だからね、わざわざ敬語を使う必要はないの」

 彼女はシンプルで可愛らしい腕時計で時間を確認した。もう帰るのかな。そう考えていると、すっとこっちに目を向けた。

「さてと、そろそろ時間だから行くわね。今度はもう少し長く一緒にいようね」
「う、うん。そうだね」

 そういえば私、名前を言っていなかったな。

「あの、私の名・・・・・・」

 言葉を続けようとしたが、彼女が口を開いてこう言った。
「またね。琴音」
「何で知って・・・・・・」

 もうすでにエレベーターに乗っており、ドアが閉まってしまった。
どこか掴み所のない人だったな・・・・・・。
 それから私はまわりにどのようなものがあるのかを知るために、同じところを何度か回ってみた。数時間たってから、家へ帰った。夕飯のときに今日の出来事をお兄ちゃんと支樹に話した。

「その女の子、お前の学校の生徒じゃないのか?」
「ううん、違うよ。違うクラスの友達も数人いるし、あんな綺麗な女の子がいたら、誰かがうるさく騒いでいるだろうしね」