「痛いな、何すんだよ・・・・・・」
「まったく、人が見ていないと思いやがって。琴音、さっきのことはもうやめよう。危険すぎる」
「なんだよ」
「お前には教えない。兄妹だけ知っていればいいからな」
「琴音、あとで教えろ」

 こそっと耳打ちをしてきた。もちろん、教える気なんてない。
 部屋でのんびりとしていたとき、小さな咳が聞こえた。

「お兄ちゃん、風邪?」
「俺じゃない。こいつ」

 兄ではなく、支樹が咳き込んだのだ。よく見ると、すこしだるそうにしている。

「支樹、大丈夫?」
「熱あるかも・・・・・・」
「体温計、取ってくるから待っていて」

 立ち上がって、部屋を出ようとすると、手を握られ、止められた。

「計って・・・・・・」
「わかったから」
「じゃなくて・・・・・・」

 数秒間黙ったので、顔を覗き込んだら、支樹も顔を上げた。握られた手を支樹の額にくっつけた。ちょっと熱がある。

「・・・・・・お兄ちゃん、熱がある。風邪薬はあった?」
「あるけど・・・・・・。支樹、風邪なら家で眠っとけよな」

 なんで風邪だとわかっていながら、ここへ来るのだと、兄はつぶやいていた。
 布団を敷いて、支樹を寝かせた。食欲はあるかな。