花色の月


選んだばかりの湯呑みに、那月さんが急須からお茶を注いでくれた。


「いただきます」


「どうぞ、十夢にはこちらです」


何故か知花さまの湯呑みには、ヤカンから何かを煮だしたようなお湯を注いでいる。


「なぁ…これって……」


「センブリです。よく先代に飲まされていたでしょう?」


「センブリって…あのちっちゃいお花の?」


「そうですよ。
お腹に良いそうです。花乃も飲んでみますか?」


…でも、匂いを嗅いだだけで軽くえづいている知花さまを見たら、飲みたいなんて思えないよねぇ…


「…いえ、遠慮させて頂きます」


「えぇ、賢明だと思いますよ」


……知花さまって、いじられキャラだったの?
桜ちゃんと居るときは、けっこう俺様な気がしてたんだけど…



「これ……」


ふんわりと香るのは……


「桜入りの緑茶らしいですよ」


「なに!?俺にもそっちくれ!」


「そう言うと思いました」


「なら…」


「差し上げません」



なんか知花さまが気の毒になってきたかも…

でも、やっぱり知花さまは桜に反応するんだね。


眉間にシワを寄せながらも、何故か頑張ってセンブリ茶を飲む知花さまを、ぼんやりと眺めた。




この空間にいると、忘れてしまいそうになる。
顔を隠してなくても良いのかなって、勘違いしそうになる…