花色の月


「なっちゃーん!」


空元気だとは思うけれど、今にも死にそうに見えた数時間前の知花さまとは別人のようだ。


「…十夢……?」


あからさまに眉間にシワを寄せた那月さんは、くるりと踵を返して家に入ろうとした。


「まぁ待てって!今日は花乃ちゃん連れて来たんだぞ?」


「花乃…?」


知花さまの後ろにすっかり隠れていたあたしは、そっと覗くようにしてお辞儀をした。



「…十夢、相変わらず卑怯な手を使いますね」


「なんの事か分かんねぇなぁ?」


とぼけたように視線を反らす知花さまを見て、那月さんがホッとしたように息をついた。

心配してたもんね、でも何だか素直じゃない那月さんも可愛く見えてしまう。

…年上の男の人に可愛いは失礼かも知れないけど…

頭の中は覗けないんだから構わない筈。




「どうぞ、お茶くらい出しましょう」


「よし、頂こう。
ところで、いつから呼び捨てにするような仲になったんだぁ?俺だってちゃん付けなのになぁ?」


知花さまは那月さんに話し掛けながら、あたしの背中を押して入り口をくぐった。

入って直ぐの土間にある釜戸で、鉄瓶が湯気をあげている。