花色の月


窓から覗くと、小桜の間を掃除は済んだようだ。

でも、知花さまに会いたい仲居の女の子達が、意味もなくうろうろしている。



「…モテるのね」


「俺を、桜介の友達だと思ってるからなぁ…」


桜ちゃんと知花さまが恋人同士だって知っているのは、あたし以外にはおばあ様と武さん位だろう。

他の人達は、仲の良い友人としか見ていない。



「……桜ちゃん…今どこにいるんだろ…」


「会いてぇなぁ…」


「………」


桜ちゃんLOVEなあたし達は、一緒にいても結局話すのは桜ちゃんの事ばかり。

桜ちゃんは、何を思ってあたしと知花さまだなんて、訳のわからない結論を出したのかしら?

…こんな桜ちゃんLOVEな人、貰っても扱いに困るんだけど…



『花乃になら、十夢をあげてもいい』


その一文が嫌にはっきり思い出せる。
暗記するくらい何度も読んだ手紙は、枕元に少しくたびれたように置いてある。


「なぁ、今からなっちゃん所いかねぇかぁ?」


「はぁ?」


「仕事始めたら、慣れるまでしばらくは外をふらつく暇なんてねぇだろ?」


まぁ…確かにそうだけど……

って、おい!!

行く気満々の知花さまに引きずられるようにして階段を降りながら、知花さまがそんな事でも動こうという気になった事に、少し安心した。



「……懐かしい」


月の原より奥に進むと、小さい頃桜ちゃんに連れられて来た覚えのある瓦屋根が見えた。

その隣にある登り窯の脇で、薪を割る人影が見える。