花色の月


その後あたしは、おばあ様の部屋を訪れていた。


「なんですか?」


「ぁ…あの、板場の皿洗いをさせてください」


今のあたしに出来るのは、それくらいだと思うから。


「あと…遅い時間の掃除をさせてください」


お客さまの前に出られないのなら、裏方をやらせて貰おうと、深く頭を下げた。



「と、言ってますが、武さんどうしましょうね?」


「じょ、嬢ちゃんそれは…」



いつの間にか後ろにいた武さんは、困ったように頭をかいている。


「私は…下働きに手加減なんて出来ません。
嬢ちゃんに怒鳴り散らしたくはねぇんです」


「そうよねぇ…」


おばあ様も頬を手をやって悩んでいるみたい。

普段は温厚な武さんだけれど、忙しい時の板場は戦場になる。

その時の怖さを知らない訳じゃないけれど…



「取り合えず板場以外の下働きをしたらいんじゃねぇか?
外回りとか、風呂回りとかなぁ」



なんで、あなたが参加してんのよ。

知花さまの言葉に、千切れんばかりに首を縦に振るのは武さんだ。


「そうですね。
ちょっと上の所から始めたのが良くなかったのかも知れません」


そう、前は一番したっぱの所を飛ばしてしまったのが、良くなかったんだと思う。

あたしは桜ちゃんみたいには出来ないけど……せめて……



まぁ、下働きのまま一生終わるような気もするけど。