花色の月


那月さんにさよならをして、行きより遥かに軽い足取りで家を目指した。

そっと窓から小桜の間を覗いてみる。

…ちょっとストーカーみたい?


部屋の中では、またまたお邪魔していたらしいモモの背中を撫でている、知花さまの背中が見えた。


コンコンッ

軽く窓を叩くと、勢いよく振り返った知花さまの表情に胸が痛んだ。

あたしを見ると微笑んで窓を開けてくれようとしているけれど、落胆の色は隠しきれていない。

…桜ちゃんだと、思ったんだね。



「どうしたぁ?夜這いか?」


「…まだそんな時間じゃ無いですけど。
第一あたしのなんていります?」


「まぁ、まだ早いかぁ。
いや?まだ殺されたくねぇから遠慮しとくかなぁ」


まったく面白くないジョークですね。
それに、あなたがあたしを抱くなんて、どーせ桜ちゃんに重ねる為だけでしょ?


「…伝言を、伝えに来たの」


帰り際、『帰ったら、ど阿呆!とお伝え下さい』と那月さんに言われたからだ。


「…伝言……?」


「入ってもいい?」


だってこんな位置からは蹴飛ばせないもの。

場所を開けてくれたので、直ぐに靴を脱いで小桜の間の縁側から中に入った。



「えっと、ど阿呆!」


「はぁ?」


あたしは、そう言うとポカーンと口を開けている知花さまの足を、軽く蹴飛ばした。

まぁ、知花さまからすればなんのダメージにもならない位の力でだけど。



「…花乃ちゃん、キャラ変わってねぇか?」


「…那月さんからの伝言」


「なっちゃん?なっちゃんと会ったのか!?」


えっ?そんなに驚く事?
だって、ご近所さんなんだしばったり会うこともあるでしょう?

引きこもりのあたしが、人に会ってる事がそんなに意外?



「あんの人嫌い、俺にすら会いたくねぇって言うから、ここ数年会ってねぇってのに…」


「え…?」



そんな風には見えなかったけど…?