花色の月


「…桜ちゃんから、連絡とかありましたか?」


「いえ、まったく音沙汰無しですね。
それに私は、個人的に桜介と親しかった訳でも無いですし」


そうなんだ…
それにしても、話さないと優しげで花の精みたいな浮世離れした雰囲気なのに、話すとけっこう毒舌だし柔らかだけど響く低音は男の人らしい。

でも、そんな風に話してくれるのも、近づけた証拠かな?と嬉しくなってしまう。



「知花さまに…会って下さいますか?」


「私が十夢に、ですか?
あっ、あとそんなに堅苦しくならなくても良いですよ。桜介や十夢に話す感じで話して下さい」


「…はい」


知花さまに話すみたいにってのは問題ありだけど…


「でも、十夢が求めているのは私ではありませんからね…」


困ったように微笑む姿は、やっぱり綺麗だ。
でも、思っていたより……桜ちゃんよりは、知花さま寄り?
男の人らしい、おっきな手も高い身長も、話すたびに上下する喉も、意外と逞しい身体も……


「花乃さん?」


「ぇ…?あっ、すみません!
あの…あたしも『さん』は無しでお願いします」


見とれていた事を誤魔化すように、呼び方について言ってみる。もちろんあたしは那月さんって呼ぶけれど。



「そうですか……さて、どうしましょう?
呼び捨てにしたら桜介に怒られますか?」


「怒んないんじゃないですか?」



いっそ、怒ってくれたらいいのに…
まさか、このままずぅっと会えないなんて事無いよね…?