花色の月


手紙をポケットに入れて、月の原への道を急いだ。

あたしが部屋から出ないうちに、桜の季節は終わりを告げて、代わりに色の濃くなってきた緑が辺りを覆っていた。



原っぱを横切って祠の前に立つと、一輪の花が置かれているのが目に止まった。

…那月さんかな?


まだ切り口が新しい、ついさっき切って持ってきたんだろうか…



手を合わせてポケットから手紙を取り出した。

隅の方に置こうとして、ふと下ろした目線の先に何か光る物が映った。



……?


拾い上げてみると、それはピアスの片っ方だった。

細かい細工の施されたシルバーのリングピアス。




…那月さん……ピアスしてたっけ?

桜ちゃんと知花さまがお揃いのピアスをしているのは知っていたけれど、それとは違うし…

こんな所に来るのは、那月さんくらいしか思い浮かばない。




「…花乃さん?」



その時、会いたかった人の声が、すぐ後ろでした。


「ぁ……」


「こんにちは。
探し物をして戻るのも、時には良いですね。花乃さんに会えました」


ピアスを那月さんに渡すと


「この間は、すみませんでした!
約束を破ってしまって…」


と、慌てて下げた頭に、思いがけず大きな手が置かれた事に驚いた。




「気にしないで下さい。
…大変だったのでしょう?」