花色の月


ゆっくりと食べるあたしに対して、知花さまの箸はちっとも進まない。

そんな姿を見て思ったの。

いつまでも泣いてちゃダメだって。




もし、あたしが……







「少しは食べなさい」


「…自分だって、さっきまで断食してた癖になぁ」


「…あたしは食べたもの」


大した量じゃないけれど、確実に胃のなかに押し込んだ。

しばらく食べてないと、胃がちっちゃくなってて量は入らないんだ。



「お膳…後で片付けとくから置いといて?」


「どっか行くのかぁ?」


「…別に」



今から月の原に行こうと思ってるけど、それを知花さまに言ういわれはない。

それに…行って何がある訳でもないんだし…
ただ、何も言わずにすっぽかしたお詫びをしたいとは、あの日からずっと思ってた。

だから手紙を書いたの。

大した内容は書いていないけれど、これを祠に置いてこようと思う。




「いってらぁ」


「…いってきます」


ひらひらと手を振る知花さまは、あんなに影のある微笑み方をしただろうか…


あたしは、この人は太陽のような人だと思っていた。
自らの力で光輝く太陽のような。

でも、実際は月だったみたい。
太陽の光を受けて輝く月だった。

太陽を失って、暗闇でもがく月。



桜ちゃん、あなたの大切な人がこんなに苦しんでいます。
どこで勘違いしたのか分からないけれど、あたしにはこの人の太陽になる事は出来ません。




ねぇ、桜ちゃん帰ってきてよ…