花色の月


なにも出来なかった…

桜ちゃん、今どこに居るの?



あの日から、おばあ様はあたしに旅館に出るようにと言うようになった。

でも、あたしに桜ちゃんの代わりが出来る訳がない。

それに、桜ちゃんが居なくなったならあたし、みたいな雰囲気がすごく嫌だった。



その雰囲気に反抗するように、部屋に隠って誰にも会わない日が続いた。


桜ちゃんの嘘つき。

もう一人で泣くなって、側に居るって言ってた癖に。こんなあっさりあたしを見捨てて行くなんて…




あの日、あたしは那月さんとの約束を破ってしまった。

布団から起き上がる事も出来なくて…

どうしても、歌う気分になんてなれなくて、時間になっても月の原に行かなかった。



「花乃ちゃん、またメシ食ってねぇんだって?」


ドアの向こうから聞こえるのは、疲れたような知花さまの声。

あの日から知花さまにも会っていない。

だって…なんで桜ちゃんを捕まえておけなかったのよって、検討違いだとは分かっているけれど、知花さまにも怒りを感じていたから。