花色の月


まさか……

行方をくらますとは思っていなかったばあちゃんは、蒼白な顔をしながらも気丈に背筋を伸ばして立っていた。


集まったのは、封筒に名前の有る俺、花乃ちゃん、ばあちゃんと武さんだった。



「…坊っちゃん……そこまで…」


そこまで思い詰める前に、話して欲しかったと悔しそうに拳を握るのは武さんだ。

同感だ。

昨日……あれは最後のつもりで俺の所へ来たのか?
最後のつもりで抱かれたのか?


どんなに問うても、答えを持っている人はここには居ない。



「…武さん、板場をよろしくお願い致します。
私は、簡単に仲居達に話をしてきます」


そう武さんに言うばあちゃんは、この数分でだいぶ年をとったように見えた。

…見合いを進めたのは、ばあちゃんだ。
自分を責めない訳がない。



「知花さま、申し訳ありませんが花乃をよろしくお願い致します」


俺に深々と頭を下げて、部屋を後にした。


板場に戻る武さんが、階段を踏み外したり、何かにぶつかる音が聞こえる。



「…花乃ちゃん」


ぼんやりと焦点の合わない瞳は、最初の瞬間と変わらぬ絶望でいっぱいだ。



「部屋に帰るかぁ?」


「なんで……」


「ん?」


「なんで!?あなたは平気なの?
桜ちゃんが……桜ちゃんが居なくなったのに!」


「平気な訳がねぇだろ?
取り合えず知り合いを片っ端から当たる」


怒鳴る元気があれば大丈夫か?
それでも、桜介そっくりの瞳から涙がこぼれ落ちるのを見ていると、変な気分になってくる。