黙ったまま帰る帰り道も、あたしは知花さまの後ろを歩いていた。
だって、知花さまの隣は桜ちゃんの場所だから、なんとなく居心地が悪いような気がして…
「ありがとうな、湯冷めしちまったかなぁ?」
思いっきり今更な事を言う知花さまに、呆れながら返事をした。
「大丈夫。…じゃあ、おやすみなさい」
「あ、後でちゃんとしたのは考えるけどな?
取り合えずお礼」
左手に握らされたのは、懐かしい飴玉だった。
「じゃ」
ひらひらと手を振りながら部屋に戻る知花さまを、ぼんやりと見送ってからあたしも裏口から中に入った。
この飴は昔、知花さまがあたしによくくれた物と同じだった。
桜ちゃんの手前、なんとなく断りづらくていつも受け取っていた苺の飴玉。
押し入れを開けると、奥の方にあるクッキーの缶を取り出した。
「…賞味期限、とっくに切れてるよね……」
いつも受け取ったは良いけれど、なんとなく食べたくなくて、でも捨てるなんて事は出来なくてこの缶に入れていた。
けっこうな量入っている飴玉の包装紙は、今あたしの手のひらに乗っている物と寸分違わない。
…缶の中の物のが、少し色褪せているくらいかな…
その缶は、キッチリ閉めてまた押し入れの奥にしまった。
今日貰った二粒は入れずに…
カサリと包装紙を開けて、一粒口に含む。
甘酸っぱい苺の味が口の中に広がって、どうしてか涙がこぼれ落ちた。
