花色の月


「そうだなぁ…… Let It Beが聞きてぇなぁ」


「…ビートルズの?」


それ以外は知らないけれど…

知花さまは土手に腰を下ろしながら、切なげに川を見下ろした。



「あぁ、歌ってくれよ」



「…久しぶりに歌うから…音外しても文句言わないでね」



あたしは立っていた方が歌いやすいから、知花さまから数歩離れた所に立つと息を吸い込んだ。

ここなら音量を気にせず歌える。

今は精一杯歌おう、悲しみにくれる知花さまの為に…



最後の音が闇に消えても、知花さまの横顔は動かなかった。

…何を見ているんだろう……



「…すげぇ、何だな魂を洗われた気がするよ」


「………」



返答しづらい…
取り合えず黙っていよう。

ふと、こちらを見た知花さまの顔を、月明かりが照らした。



「…ぇ……?」


拭いもせずに流れる涙を、その時あたしは綺麗だと思ったんだ。



「…女々しいよなぁ俺。
女の子の前で泣くとかダッセー……」


知花さまは苦笑して、目元に腕を置くとごろんと仰向けに寝転がって空を見上げた。


「…そうね」


綺麗だと思ったくせに、口から出るのは憎まれ口。
この口の聞き方、いい加減になんとかしなきゃ。
いくら知花さま限定だからって…