花色の月


桜介の足音が部屋の前を通り過ぎるのを、痛みで胸が軋む思いで聞いていた。

桜介なりの気遣いなのかも知れないが、ただいますら言って貰えなかった事に、かなりショックを受けてる自分がいる。


思わず握りしめた手の中で、ガラスのグラスが砕ける感触がした。

でも、音も聞こえなければ痛みも感じない。

卓の上に、砕けたガラスと氷水が広がる。

そこに朱が混ざっているのを、ぼんやりと眺めていた。



「入るよー……十夢っ!?」


「…桜介……?」



さっき階段を上っていかなかったか?
目の前で俺の手からガラスの破片を取り上げて傷の具合を確認しているのは、確かに桜介だ。



「…大した事ねぇよ」


「馬鹿たれっ!なにやってんだよ!」



何だかメチャクチャ怒ってんなぁ…
怒ってる顔もいいなんて思う俺は、どっかおかしいのか?


「…痛む?」


「いや?そうでもねぇよ」


切り傷の痛みよりも、こっちのが痛ぇからなぁ…
…自分の余りの弱っちさに、ため息も出てこねぇ…



「…ごめん……」


馬鹿たれと怒鳴った時の炎は、驚くほど一気に鎮火したようだ。

俺の手にクルクルと包帯を巻いた後、しょんぼりと膝を抱えてしまった。


「なぁんでお前が謝んだよ。俺がボケッとしてたからだろう?力加減間違えちまったなぁ」



自分のせいだと、唇を噛み締めて涙を堪える桜介を抱き締めながら、蓋をするように目を固くつぶった。

涙なんて見せられねぇよな。
俺が泣いてみろ、桜介がますます自分を責めちまう…