花色の月


知花さまは、桜ちゃんをここでずっと待っていたのだろうか…

側に置いてある灰皿が、長い間その場にいた事を示していた。




「…いくらなんでも吸いすぎです」



灰皿を片そうと持ち上げると、乗り切らなかった吸い殻がポロリとこぼれ落ちた。



「つい…なぁ……」



くるくると大きな手の中で弄ばれているジッポには、桜の模様が刻まれている。

この人は…あたしよりも桜ちゃんに囚われているんじゃないだろうか……




「…なんで、桜ちゃんなの?」


この人はモテる筈。
現に女性のお客さまは廊下ですれ違うだけで頬を染めて、仲居の子達はこぞって小桜の間に行きたがる。



「…なんでかなぁ……あいつじゃないとダメなんだ」



「…でも……」



桜ちゃんがお嫁さんを貰ったどうするの?
あたしは元から叶わぬ恋だったけど、この人は桜ちゃんと想い合っているのに…



「大丈夫。…もう二度と現れたりはしねぇよ」


吸い殻を捨てるために、部屋を通り抜けようとしてふと振り返った。

逞しい背中が、あり得ない程頼りなげに見えて、桜ちゃんの想い人なのに慰めてあげたいと思うなんて…


もちろん何も行動には移さなかったけれど、自分の心境の変化に足元が揺らぐような気がした。




…あたしは、どうしたいんだろう……