花色の月


「ここにはよく来るんですか?」


「…はぃ……」



あなたと初めて出会ったあの日から。



穏やかな優しい声色で話す目の前の人が、幻や花の精では無いと確信がもてない。


その端正な横顔に見とれていると

……肩より少し長い位の黒髪を、さらりと風が揺らしていった。

…白銀に見えたのは、月明かりの見せた幻だったんだろうか…

涼やかな切れ長の瞳が印象的で、紺色の着流しによく映えていた。




「それにしても、そんなに驚きましたか?」


最初のあたしの反応について言っているみたい。


「あの…あんまり綺麗だから花の精かと思ってて…だから……」


口からこぼれると、どうしようもなく頭の悪い子みたいな台詞で、最後まで言えずに下を向いてしまった。

…変なこと口走るんじゃなかった……



「それはまた、素敵なものに間違えて頂いて光栄です。残念ながらただの人間ですが……
那月(なつき)、と申します」



「…那月さん……ぁ、あたし花乃です」



やっぱり月の精?
なんて思った事は内緒だ。

だって…何だか浮世離れした雰囲気を身にまとっているんだもの。





「あの…そのお花は……」