桜ちゃんがお見合いに行ってる間、おとなしく部屋に居るなんて気が狂いそうで、春物の上着を羽織るとあの『原っぱ』を目指した。
もしかして今日こそは、あの綺麗な人に会えるんじゃないかって微かな期待を胸に。
いつもように祠に手を合わせていると、後ろでカサリと音がして…
いつもの猫ちゃんだと思って勢いよく振り返ると、そこには着流しを着た綺麗な人が微笑んでいた。
「お参りの邪魔を、してしまいましたね」
「ぁ…いえ……」
本当に会えるとは思っていなかった。
だって、人かも分からない月明かりの幻に見えたんだもの。
「花を供えても…?」
静かに微笑むその人は、手に持った白い花を軽く持ち上げてみせた。
「はい…」
慌てて脇に避けると、足元にすりよってきたのはいつもの猫ちゃん。
なんだか外出してしまいそうに激しく動いていた心臓も、猫ちゃんの存在で少し落ち着いてきたみたい。
…どっちにしろ、バクバクいっているけれど…
「楓(かえで)と仲良しなんですね」
「ぁ…楓ちゃんって言うんですね……」
もちろん子猫ちゃんが自分で名乗る訳もなくて、はじめて名前を知った。
