「花乃…近頃森によく行くの?」



「ぇ…?」



「だって、花乃の靴にいつも土が付いてるし、たまに部屋にいないからさ」



…桜ちゃんって無駄にするどいね……

あの日からあたしは毎日あの原っぱに通っている。

祠に手を合わせて、一曲か二曲歌って帰ってくるのが日課になっていた。


あの子猫はいる時といない時があって、いる時はいつも目を細めてあたしの歌を聴いている。

あたしの小さなお客さまだ。


あれっきりあの人は現れないけれど、いつの間にか桜が満開になっていた。




「花乃?」



「うん…ちょっとだけ行ってるの……」



「ねぇ、これから花乃はどうしたい?」



いきなり本題に入った桜ちゃんの瞳はとても真剣で、誤魔化す事なんて出来そうもない。



「…ごめんなさい……」


「別に責めたい訳じゃ無いんだけど…
でも、いつまでもこのままじゃ居られないよね?」


「…うん」



それはあたしが一番よく知っている。

いつまでも引きこもって、出るのは森に一人で行くときだけなんて生活を続けていて良い訳がない。



でも…どうしたら抜け出せるのか分からないの……

どうしたら歩き出せるか分からなくて、何度も最初の一歩を踏み出そうとして足踏みをしている。




「桜介ー!ばあさんが呼んでるぞー?」