花色の月


気を取り直して、ちゃぶ台の上を見るとそう言えば飲み物が無い。

いつも沸いている鉄瓶を持ち上げて、後ろを振り返りながら聞いた。



「那月さんも飲む?」


「あっ、俺の分もよろしくねん」



突然の声にビックリして鉄瓶を落としそうになった。

また熱いお湯を被ると思って、思わず目を閉じたあたしの直ぐ側で那月さんの声がする。



「そう言う登場の仕方は頂けませんね。もし花乃が火傷でもしていたら、あなたを窯で跡形もなく焼いていますよ?」



どうやってちゃぶ台の前から一瞬にしてここまで来たのか分からないけれど、間一髪で火傷はしないで済んだみたい。



「ぁ……ありがとうございます」


「いいえ、火傷は無いですね?」



念のためと言ったように、あたしの手を確認するとホッと息を吐いている。



「いや、そんなつもりじゃなかったんだけど……」


「あっ」



存在忘れてました。

あたしが驚いた声の主は、困ったように頭を掻いている。



「なんの用ですか?大した事がない用なら全速力で山を降りて下さい」


「えぇ~、せっかくこんな山奥まできてやったのに!」


「頼んでません。お引き取り下さい」



那月さんに威嚇されているのは……克彦お兄ちゃん。



「ちょっと如月に会いたくなって?」


「疑問系ですか。私はこれっぽっちも会いたくないですね。それ以上中に入って来ないで下さい」



敷居を跨ごうとした克彦お兄ちゃんを、バッサリ切り捨てる那月さん。