そっと戸に手を掛けると、よく手入れされている戸はコトリと小さな音を立てて開いた。

入って直ぐの土間に人気はなくて、いつも開け放してある畳の部屋では、座布団の上で楓ちゃんがうたた寝している。


一先ず荷物を上がり框に置くと、仕事場の中を覗いた。


真っ暗なんだけど……

目が慣れてくると、なにやら細かそうな作業をしている那月さんの背中が見えた。



まぁた……

取り合えず蝋燭に火を灯して後ろから近づいた。



「おや?」


「おや?じゃないよ……目悪くなっちゃうよ?」


「眩しいですね」



蝋燭を近付けると、切れ長の瞳を更に細くして本当に眩しそう。

蝋燭の仄かな明かりなんだけどね。



蝋燭を台に置くと、那月さんはあたしを両手を伸ばして抱き寄せた。

立ったままのあたしの腰に腕を回して、肩に顔を埋めると深く息を吸う。

仕事用に後ろでくくっている髪を、さらりと指ですくった。



「花乃……が欲しいです」


「その前に、ごはんです」


「では、デザートは花乃って事で良いんですね?お風呂沸いてますよ」



……温泉なんだからいつも沸いてるんだけどね。


でも、那月さんに甘い微笑みを貰うと、思わずあたしも微笑んでしまう。

那月さんは粘土のついた手をさっと洗って、思いっきり伸びをしている。

ずっと、あの体制だったら体も固まっちゃいそう。