花色の月


いくら考えても思い浮かびません。

あんなに楽しそうにおにぎりを握って、風呂では可愛らしく恥じらって、布団の上では色っぽく乱れてくれたんですが……

やっぱり先に寝てしまったのが、良くなかったんでしょうか?



このままでは埒が明かないと、直接花乃に会いに行く事にしました。



……もう少し日が暮れてからのがいいでしょうか?

明美さんに会ったら、蹴飛ばされそうな予感がするので……




辺りを夕闇が包む頃、何故か足音を忍ばせた私は、花乃の部屋の窓に小石を投げました。

コツンと当たって、もう一度戻ってきた小石を捕まえると、また投げようかと開かぬ窓を見つめる。


「……花乃」


小さな声で呼んでみても、窓の向こうに人影は現れません。

疲れて寝てしまったのでしょうか?
明かりは付いているんですけど……



コツン
もう一度小石を投げると

今度は明らかに花乃の影が窓ガラスに映りました。


ですが、薄いレースのカーテン越しにこちらを見ている筈の花乃は、窓を開けてはくれません。



「……花乃、顔だけでも見せてください」



なんでここまで拒絶されるのでしょう?

流石に折れかけた心を、なんとか奮い立たせてまた花乃を呼んだ。



「花乃……」


コトッとようやく動いた窓辺に、明美さんが言っていた通り元気のない悲しげな花乃の顔が見えました。



「……なんで……来たの?」



そんな事を言われるとは思っていなかった私は、しばらく呆然と立ち尽くしてしまいました。



「……花乃、私は何をしましたか?」


「……ごめんなさい……まだ整理出来ないの……」


せっかく開いた窓は、また静かに閉められてしまい

窓辺に映る影だけでもと思った私の前で、花乃の部屋の明かりは消えてしまった。



立ち尽くす私の耳に、どこかから聞こえてくる楽しげな宴会の音が妙に腹立たしく聞こえました。