花色の月


しばらくは楓相手にごねていましたが、そんな事をしていても花乃には会えないんですよね……



意を決して受話器を取ると、花乃の携帯の番号をダイヤルする。


……出ませんね。
基本的に『携帯』してませんからねぇ……

これは月守旅館に掛けてもいいでしょうか?

花乃が出てくれると良いんですが……



『はい、お電話ありがとうございます。月守旅館でございます』


残念……明美さんでした。
それでも、女将さんが出るよりは難易度は低いかも知れませんね。



「ご無沙汰しています。如月ですが……」


『ちょっとあんた何したん?
花乃ごはん食べへんし、一人になるとなんか暗いし、頑張りすぎて倒れそうやし……』



私だと分かった途端、怒った声で捲し立てる明美さんに面食らいながら、いつまでも続きそうなその言葉に口を挟んだ。



「ちょ、ちょっと待って下さい。えっと……花乃が元気無いんですか?」


『無自覚か、最悪やな。
花乃電話出ぇへんと思うで』


「ぇ……原因は……私ですか……?」


『あんたや。じっくり胸に手当てて考えるんやな。電話が来た事は伝えたる』




ツーツーツー……

まったく記憶にありません。
会えてないですからねぇ……

それとも、おにぎりを握った日にやらかしたんでしょうか?