最近、花乃に会えてません。
あの日、朝起きると既に花乃の姿はありませんでした。
そして、楓に持たせた文にも返事は無く、仕事の期限に追われていた私はついそのままにしてしまったんです。
……花乃も忙しいのでしょうか?
やっと一区切りついて、また楓に手紙を持たせたんですが、やっぱり返事は持って帰ってきませんでした。
「そろそろ花乃禁断症状が深刻なんですけど……」
とんでもなく面倒な仕事は、あと少しで納品されようと仕事場の棚に並んでいます。
お孫さんの内祝に、湯呑みと箸置きと茶碗を150組 ……
ここまでは良いんですよ?
と言いますか、ありがたい依頼なんです。
問題は……この全てに名前の絵付けを頼まれた事ですね。
『ひなこ』と言うお名前と何故か向日葵の花の絵付けを。
予備の分を入れると、500個近い数の器にひたすら『ひなこ』と書く毎日。
申し訳ないですが、『ひなこ』って名前と向日葵がだいぶ苦手になりました。
その上最初には無かった注文が増えたんです。
書体や器に書く位置、字の色それぞれ字の大きさや向日葵の花びらの数と……ノイローゼになるところでした。
まぁ……まだ箱書きが残ってるんですけどね……
これは150個書けば終わりますし、自分の名前なら寝ながらでも書けるので楽なものです。
ですが、これが終わったら当分仕事で筆は持ちたくないものです。
「楓、ちゃんと花乃から返事を貰ってきて下さいよ」
「んなぁぅ」
今のは肯定の返事ではありませんね?
なんせ、黒電話を前足でポンポン叩きながら言ってますからね。
電話は……苦手なんですけど……
