布団の波の中で、那月さんに溺れていたあたしは、その後地の底まで突き落とされる事を知らない。
もう空が白々と明らむ頃、珍しくあたしより先に寝てしまった那月さんを眺めていた。
疲れてたんだなぁ……
愛しくて愛しくて、寝顔を見ているだけで幸せな気持ちになれる。
すぅすぅと寝息をたてる那月さんの頬に一筋髪が落ちていて、そっとそれを退けると小さく身動ぎをした。
ぁ……起こしちゃったかな?
「……ひな……こ」
ぇ……?
一瞬頭が真っ白になった。
だれ……?
今まで那月さんの話にも出て来たことのない名前。
間違いなく女の人の名前で、自然と涙が溢れてきた。
あたしが触れたのを、その人だと勘違いしたの?
じゃあ、夜を共に過ごした人?
それとも……過ごしてる人……?
最近会えなかったのも、その人がここに来ていたから?
悪い方に悪い方にと考えが転げ落ちていく。
だって、どう考えればいいの?
枕元に置いてある簪を、ぼんやりと眺めた。
あの日、那月さんが言った言葉は……?
さっき言ってくれた言葉は……?
一生共に居ようと約束した事が、急に昔の事のように思えて涙は止まらなかった。
どれくらいそうしていただろう。
柱時計が時を刻む音に、追いたてられるようにして起き上がった。
……このままにする事が、良くないのは分かってるんだけど……
那月さんに聞いて、決定的な事が分かってしまうのが怖くて、あたしはそのまま布団を抜け出すと足音を忍ばせて如月窯を後にした。
