花色の月


湯船に浸かってからも、那月さんの指はあたしの体をなぞっている。



「な、那月さん……くすぐった……い」


「くすぐったいだけですか?」


「……いじわる」


「花乃が可愛らしいのが悪いんです」




まったく悪びれないで、楽しそうにあたしの耳元で囁く。

甘い声に、思考が止まってしまいそう。

温かいお湯に浸かって、那月さんにもたれていると、悩んでいた自分が溶けてなくなってしまったみたい。



「そろそろ出ますか?」


「……うん」



お湯にって言うより、那月さんにのぼせちゃったみたい。

ふわふわしたまま、バスタオルにくるまってその場に座り込んでしまった。




「お水飲みますか?」


「……うん」




さっきから『うん』しか言ってない気がする。

直ぐに持ってきますと、バスタオルを腰に巻いただけで、那月さんは脱衣場を出て行った。

拭ききれてない水滴が髪から落ちて、筋肉質な背中をつたうの見送る。



直ぐに湯呑みに水を汲んできてくれた那月さんは、あたしには渡さないで抱き抱えるようにして口に近付けた。

これ……はずかし……

あたし専用の桃色の湯呑みに入った、汲みたての井戸水はするりと喉を通って火照りを冷ましていく。