「あっつ!」
「あっ、大丈夫ですか?花乃はもう少し冷ましてから握りましょう」
炊きたてのお釜から握るなんて、無理。
那月さんは微笑んで、湯気だけで火傷しそうになったあたしの分を取り分けた。
熱々のごはんでお握りを握ってみせる那月さんの手元を見詰める。
「……那月さんって器用だよね」
「そうですか?」
出来ない事なんて無いじゃないかってくらい器用な手を眺めながら、またため息がこぼれた。
……やっぱり、那月さんがあたしを選ぶ理由が分かんない。
「もし、私の女性版みたいな方が居たとしても、私は決して好きにはなりませんよ?」
「なんで?」
「では、花乃は自分そっくりの男性を好きになりますか?あっ、見かけだけじゃありませんよ」
見かけだけなら、桜ちゃんがかなり近いもんね。
最近ちょっぴり自覚した。
……その桜ちゃんの事は好きだったけど……
桜ちゃんの見かけで、あたしの中身?
「ぜーったいイヤ!」
「そんな物なんですよ。自分に無い物を相手に求めるんです」
えっと、那月さんの女性版……
うん、絶世の和服美女に違いない。
「花乃、思考が脱線してませんか?」
「フフッ、してるかも?
えっと、手に水を付けて……あれ?」
笑いながら手に水を付けてごはんを握ろうとした。
那月さんがやったように、真似したつもりだったんだけど……
手の中のごはんは纏まるどころか、ますますバラバラになってしまった。
「水を付けすぎですよ。付けたら軽くきるくらいで良いんです」
「……これ、どうしましょう……」
