「私としては、花乃を美味しく頂きたいんですけどね」
「それはまた今度に……」
今日はおにぎりを覚えるのが一番だし。
端正な顔に真剣な表情を浮かべたまま、少しやらしくあたしの背中を撫でる那月さんから逃げ出して、上がり框に座った。
「ねぇ、隔世遺伝って……なんの事?」
「話を反らしましたね?そんな事ばかり上手くなられると困るんですが」
「………」
「じゃあ聞きますが、花乃は女将が料理しているところを見たことがありますか?」
おばあ様が、お料理?
あれ?………無いかも。
「極度の料理音痴らしいですよ?花乃は料理が上手くいかないからって、女将さんに怒られた事はありますか?」
これまた、無い。
そう言えば、お花生けるのに失敗したり、お茶をサボったりした時は鬼のように怖いのに
料理をしろとは言われた事がない。
「それって……ほんと?」
「だと思いますよ。だから、花乃が料理が不得手でも何も言わないんでしょうね」
「知らなかった……」
「ですから、料理が出来なくてもそんなに嘆く事はありませんよ」
そうなんだろう……
まぁ、料理音痴だけれど、味音痴でなければ月守旅館の女将にはなれるみたいだ。
でも……那月さんのお嫁さん……
あれ?お婿に貰う場合はなんて言うの?
奥さんって言うのかな?なんて言うんだろう?
としては、不合格な気がするけど……
