花色の月


「……おにぎりを作る為に、釜戸でごはんを炊くってすごいかも……」


「すみませんね、ガスって言う便利な物が無いもので」



あたし、炭火で卵焼き失敗したんだけど……

薪の火でお米炊けるかな?

そんな事を考えながら、火吹き竹の使い方を教えて貰って火に薪をくべる。



「ケホ……」


「あっ、吸ったら駄目ですよ!」



ちょっとだけだよ?

ちょっとだけ煙を吸い込んでむせると、那月さんは大袈裟なくらい慌てて、あたしの手から竹筒を取り上げた。



「ケホ……やる」


「駄目です。薪でも運んで来て下さい」



もう沢山置いてあるじゃん。

取り合えず那月さんの隣に座って、メラメラと薪を包んでいく炎を眺めた。



「 『始めちょろちょろ中ぱっぱ赤子泣くとも蓋取るな』って 知ってますか?」


「はい?」



なにその呪文みたいなの。

突然、訳の分からない事を言った那月さんの顔を見る。



「お米の炊き方ですね。薪の火加減を表してるんです」


「ちょろちょろは大体分かるけど、ぱっぱってなに……?」


「火力が強い事をそう表したみたいですよ。昔の人は」


「あと……最後のは?」


「あぁ、赤ちゃんが泣いても蓋を開けてはいけませんよって事ですね。要するに蒸らしは大切ですよって事です」



ふぅん、流石に月守旅館にも釜戸は無いしね?
たまに炭火は使うけれど、ごはんは大きな炊飯器だしちょっと不思議。

物珍しいのからこうやってるけど、これを毎日やるのってけっこう大変じゃない?



「そうですね。面倒な時は干し飯か麺類とかにしちゃいます」



……またも聞き慣れない言葉が聞こえたですが……