花色の月


「あたし……ちっともお料理上手くならないの」


「だそうですね」



武さんにでも聞いたんだろうか。
那月さんの手がそっと髪に触れた。



「那月さんちゃんとごはん食べてるかなって思っても……美味しいごはん作って持ってくとか出来なくて……」



こんなんで結婚しても、あたし何にも那月さんの役にたてない。

優しくあたしの髪を鋤く、長い指が温かくて涙が出そうになった。



「前にも言ったと思いますけど、私は花乃にごはんを作ってあげたいんです。ですから、別段花乃が料理を苦手でも問題は無いんですよ?」


「でも……出来た方が良いでしょ……?」


「まぁ、花乃の手料理って響きはなかなか捨てがたいですが、つらいのに無理して凝ったの作って欲しいとか思ってないですよ?」


「こったの……?」


「どうせ、武さんが作るような物を作ろうと頑張ってるんでしょう?」



だって、武さんが先生だし……?

月明かりに照らされる那月さんは、さらりと黒髪をかき上げた。



「立派な懐石料理なんて望んでないですよ?おにぎりと卵焼きとか……唐揚げとか」


「おにぎりって……料理?」



でも握った事無いかも……
だし巻き卵ならこの前作ったけど、炭火の調節が難しくて焦げてボロボロになってしまった。