花色の月


那月さんは、黙ってあたしの手を取ると、当たり前みたいに如月窯の方に小道を曲がった。



「花乃が……何を心配しているのか分からないんですが、そんなに離れないで貰って良いですか?」


そう言う那月さんとあたしの間は、手を繋いでいるからそんなに離れてはいない。

それでも、いつもみたいにくっついているかって言うと、そうでもない。

……やっぱり、離れてるって言うのかな。



「婚約の話が……重かったですか?」



大きな木の下で足を止めた那月さんを、月明かりが照らしている。

表情は変わらないように見えるけれど、どこか揺れるような瞳が見てとれた。



「ごめんなさい……」



那月さんの事を考えていた筈なのに、那月さんを蔑ろにしちゃってた。

足元に視線を落としたあたしの視界で、那月さんの足が一歩後ろに下がると、那月さんの手が離れそうになった。



「すみません、花乃を縛ってはいけないと分かってた筈なんですけどね」



あたしのごめんなさいを、どう取ったのか……悲しげな声が自嘲するように闇に落ちた。


そのまま歩き去りそうな那月さんの背中に、思い切り抱き付いて一番驚いたのはあたしかも知れない。



「違うのっ!那月さんに愛想つかされそうで……怖くて……」


「……えっ?」



那月さんらしくない思わず漏れた声。

あたしは、しがみついたまま那月さんの着流しに顔を埋めて深呼吸をした。

甘い香りを吸い込んで、小さな声で続ける。