あんな明美ちゃんを見たからって訳じゃ無いけれど、どうしようもなく那月さんに会いたくなった。

でも……仕事が一段落したら連絡を寄越すと言っていた那月さんからは、まだなんの知らせもない。


そんな時に押し掛けるのは迷惑だろうし、ごはんを作って待ってるなんて可愛らしい事も出来ない。


……なんせ、あたしの料理の腕は一向に上達していないから。



「どうしてるのかな……」


「ミャァ」



足元にすりよってきた、モモの背中を撫でながら話し掛ける。



「ねぇ、那月さんちゃんとごはん食べてると思う?」


「ンミャ」


「また、武さんに教えて貰おうかなぁ……」



婚約したとは言え、まだ正式な物ではないし、愛想が尽きて婚約を解消したいなんて言われたらどうしようと、ネガティブな考えがむくむくと涌いてきてしまう。

ただ考えて悩んでうじうじするのは卒業しようって決めたんだから、ここでいつまでもモモに相手をしてもらう訳にはいかない。



また手に傷が出来るのかと憂鬱になりながらも、板場に向けて廊下を急いだ。



「いやぁ、瑞希は筋がいいなぁ!」

「これなら忙しい時にヘルプに入って貰えるな」



入ろうとした瞬間聞こえてきた言葉に、足がすくんで前に進めなくなった。



「ほんとですか~?フフッ、お料理は女のたしなみですもんね」

「ハハッ、確かに出来りゃ得点たかいよなぁ」



たしなみ……ぐっさりと刺さった言葉がまだ抜けないうちに、光さんの言葉が追い討ちをかけてくる。