まれに、本当に山神様が連れていってしまう事もあると言うけれど。
「あっ、那月さん何か用でも?」
だって、待ち合わせは夕方だもん。
桶が空になった所で、那月さんを見上げて聞くと、ちょっと困ったように微笑んだ。
「女将さんにお話があって来たんです。花乃が見えたから寄り道してしまいました」
おばあ様に用事?
こないだ頼んでた、焼き物用のお皿のことかな?
「おばあ様は、たぶん今頃は板場で武さんと打ち合わせしてると思うよ?」
「ありがとうございます。
今日、楽しみにしてますね」
那月さんはそう言うと、微笑んで裏口に向かった。
実は表から入った事はないそうだ。
それはあれだね、身内って事だよね?
はっ!那月さんの凛とした後ろ姿に、見とれてる場合じゃない!
やる事やっちゃわなきゃ!
同じように忙しそうにしている明美ちゃんと、すれ違い様に笑い合う。
日が暮れるのが待ち遠しいね。
