「……その時、手を出していませんよね?」
『なぁに怖い声出してんだぁ?
酎ハイ一杯飲んだだけだからなぁ、ほんのりピンクになっただけで話し方とかは変わんなかったしなぁ?』
じゃあ、今の花乃は何なんですか!?
十夢の前ではこんなに甘い顔をしなかったんだと安心はしても、今のこの状況の説明にはならないんですよね……
『なんだぁ?花乃ちゃんが酔って暴れてんのかぁ?』
「……暴れるよりたちが悪いかも知れません」
『もしもーし?僕だけど』
突然桜介に代わったようです。
ところで、なんでこの人達は名前を名乗らないんでしょう?
『なんとなーく状況が分かったんだけど。
花乃が可愛く誘惑するから、このまま食べちゃうか、酔った勢いでって言うのは避けるか悩んでんでしょ?』
「……はい」
正に、その状況です。
電話口でクスクス笑う桜介は、たぶんこの状態の花乃を知っているんでしょう。
何だかとても気に入りませんね。
『かぁわいいもんね?でも、それはさ心を許してるって証拠だと思うよ?僕以外の人の前でそこまでなったの見たことないから』
なんかとてつもなくイライラするのは、どうしてでしょうか。
この愛らしい花乃を、桜介が知っているってだけで、どうしようもなく殺意が沸きます。
『フフッ、電話越しでよかったー。じゃあ頑張ってね?十夢の仕事の依頼の電話は後日掛けさせるからさ』
返事をする間もなく切られた電話を握り締めて、ため息をついた。
結局妬かせるだけ妬かせて、対処方は教えてくれないんですね?
……無いのかも知れないですけど。
