花色の月


「…彼女は、強いですね」



たぶん、婚約者とお腹の赤ちゃんを亡くした事を言っているんだろう。

それは、あたしも思ってた。

もし、今……あたしが那月さんを失ったら、それもそんな形で会えなくなったなら、たぶん……


そう考えたら、少しオモチャにされたからって、顔も見ないようにして拗ねてるなんて、勿体ないんだと気が付いた。




「花乃、隣に居させて下さい」


「えっ?」


「桜介に勝つとか負けるとか、そんな事よりも大切な事を、少し忘れかけていたのかも知れません。
愛する人の隣に居られる事は、決して当たり前では無いんですよね……」



涼やかな漆黒の瞳が、真っ直ぐあたしを見つめてくれる。

この時ひとつとっても『当たり前』なんかじゃないんだ。



「あたしも……那月さんに甘え過ぎちゃってた。反省しなきゃ……」


「それはちょっと間違ってますね。私はまだまだ花乃が甘えてくれないと思ってるんですから」



あら?何だかそこは噛み合わないねぇて

首を傾げたあたしを、そのまま布団に押し込んで、那月さんも隣に横になった。



「花乃と再会するまでは、人に会うことを極力避けていた私は、唯一人に認められる事は器を焼くことだけでした」



う~ん。
だけって言うには大きいと思うんだけど…

だって、このご時世陶芸だけで食べていくのは、なかなか難しいと言われている。

その中で、茶器や花器なんかの注文が絶えない那月さんは、かなりすごいんだっておばあ様が言っていた。



「これしか……出来ないんですよ。十夢みたいに器用ではないですしね?」


「那月さんは、かなり器用だと思うけど……」



那月さんが不器用なら、あたしは存在すら許されない気がする……

少し前から頑張っている料理は、ちっとも進歩しないで、指に絆創膏ばかり増やしているし。