花色の月


小桜の間に知花さまが落ち着いて数日たった日の事。



今だに知花さまは部屋に火鉢を置いている。
暖房は完備されているし、別にいらないと言えばいらないんだけれど、知花さまは好んで火鉢を使っていた。

…なんか思い出でも有るのかな?
どうせ、桜ちゃんに関する事だろうけど…




「失礼致します。火鉢の炭をお持ち致しました」



「あぁ、ありがとう。

あれ?もう復帰したのかぁ?」




「…いえ……役に立たないので…」



たまに使い走りをする以外は、ほとんど部屋にから出ていないなんて…

ふと反らした視線の先にいたのは、ふかふかの客用座布団の上に丸まった、ふわふわの白い猫。




「…またお邪魔してたんですね」



「ん?あぁ、モモか。
暇人の相手をしてくれてるだよなぁ?」



そう言いながらも、文机に置かれているパソコンで仕事をしていた様子が伺えるから、モモがお邪魔虫をしているんだろうけれど…



「申し訳ございません。すぐに座布団お持ちしますね」



だって、知花さまが座る筈の座布団の上にモモが居るんだもん。
畳にお客様を座らせるなんて困った子。



「ん~?別に無くてもかまわねぇよ。
それに、あんまり花乃ちゃん使うと桜介に怒られるからなぁ」



そう言って頬を触る仕草は、たぶん無意識のもの。

そこには薄くなりつつある、アザがある。