花色の月


「いったい何をそんなに嘆いているんですか?」


「…何でもない」



無くはない。

だって…いつもは暗闇が味方してくれてると思ったのに、まさかすっかり見られていたなんて……

もう少し自分の体に自信があったら良いのかも知れないけど……

まぁ、見苦しい肉は付いていないけれど、付いてて欲しい所にも無いんだよねぇ……



黄昏るあたしを見て、首を傾げた那月さんは、お粥を貰いに行くと板場に行ってしまった。

あたしがぶっ倒れると、明美ちゃんの負担が増すもんね……


あっ、でも那月さんも病み上がりなのに……大丈夫なのかな?



直ぐにお膳を持って戻ってきた那月さんは、ジッと見つめるあたしを不思議そうに見つめ返した。



「花乃…?」


「那月さん、大丈夫なの?まだ寝てなくて」


「あぁ、私の体の心配ですか。
大丈夫ですよ。普段は薬もろくに飲まないのに、昨日は明美さんから貰ってしっかり飲みましたから」



「那月さんって……野生的?」



「クッ、頑丈ですね。まぁあんな所で暮らしてますし?」



「ここも大して変わらないけど……」



そんなあたしの頬に、不意に唇を寄せる那月さんからは、いつもの着流しではないのに、甘いくちなしの香りがする。