花色の月


「駄目ですか?」


「駄目です!!」


なんでそんな事で、この世の終わりみたいな顔をしてるんですか。


しょんぼりした那月さんは、あたしの前に着替えとお湯の入った桶を置いて後ろを向いた。



「………那月さん?」


「後ろ向いてますよ?」


出ていく気は無いんですね?

それでも、熱のせいで言い争う元気のないあたしは、そのままのろのろと服を脱いだ。

体を拭いたらスッキリするって分かっていても、どうしようもなくダルい体は、思うように動いてくれない。



「だから言ったじゃないですか。
大人しく拭かれてて下さい」



いつの間にこちらを向いていたのか、お湯に浸けた手拭いを絞っている。



「…約束が違うんですけど……」



「何を今更照れてるんですか。隅から隅まで拝見してますよ?」



「明るい時は違うでしょ!」



「おや?忘れましたか?私は夜目が利くんですよ」



…それは、暗くて少し安心していたあたしを、普通に隅から隅までじっくり見てた、と…?


呆然とするあたしの手の平から腕を手際よく拭いていく。

まだ下着はつけてるけど……



「明美さんや女将さんからも、しっかり看病するように言われてますから」


あぁ、もう抵抗する気力すら沸いてこない…

熱があるから仕方ないんだ。
これはあくまで看病だ。

心の中で自分に言い聞かせて、もう一度後ろを向いて貰って着替えを済ませた。