花色の月


朝、目を開けた瞬間花乃の顔が見られるって言うのは、何回経験しても素敵な事ですね。


まだ少し寝苦しいのか、しっとりと汗ばむ額に張り付いた髪をそっとのけた。


起き上がって伸びをすると、微かにダルいけれど熱は下がった事が分かる。


……我ながら頑丈に出来てますね。
一晩で復活です。



さて、顔でも洗おうと花乃を起こさないように廊下に出た私は、つくづく月守旅館の中を知らない事に気が付いた。

花乃が来てくれるのを良いことに、あまりこちらに伺ってなかった事が、こんな所で響くとは……

今度から少しはこちらに夜這いに来るようにしましょう。




「なに朝っぱらから色気振り撒いてんねん」



「あっ、おはようございます。
顔はどこで洗えばいいんでしょうか?」



丁度よく通り掛かった明美さんに聞くと、どうやら小桜の間に行く途中だったらしく、タオルを渡して場所を教えてくれた。



「もう大丈夫そうやな?」



「えぇ、顔を洗えばスッキリして完全復活出来そうです。昨日は薬をありがとうございました」



いつもより早く治ったのは、あの薬のお陰でしょう。



「そんな劇薬渡してないねんけどな……
まぁ、今日はゆっくり花乃を看病でもしとき」



花乃が寝込んでいる為、明美さんはいつもより忙しいのでしょう。

後で朝食を持ってきてくれる事を告げて、あっという間に見えなくなった。



さて、花乃が起きる前に、顔を洗って戻りましょうか。