花色の月


そう言った私の顔を、ジッと見上げた明美さんは、いきなり体温計を差し出した。



「はい?」


「あんたも計ってみ?熱あるやろ」


「えぇっ!?」



淡々と私に体温計を差し出す明美さんと、ビックリしたらしい光の観察力の違いに思わず笑いがこぼれ落ちた。



「大したこと無いので、大丈夫ですよ」



「カマ掛けただけや。こんなんに引っ掛かるんならけっこう高いんちゃう?」



……やられましたね。

大人しく脇の下に体温計を挟みながら、花乃の居る小桜の間に向かった。




「光は着いてこなくて良いですよ」


「いーえ、俺も若女将が心配なんで」



想うのを止めるって言っていた割りにはしぶといですね。

たぶん、あのアルコールが一役買ってるでしょうが。



「花乃、開けますよ」



枕に顔を埋める花乃を、そっと抱き起こした所で、私の体温計が鳴った。



「どれ」



体温計は、私が自分で確認する前に、光に奪われてしまった。

そんなに無いと思うんですけどね。



「38.7……ってけっこうあるじゃん!」


「あんたも飲んどき」



薬を持たされて、改めてその形状をまじまじと眺めた。



「はよ飲み~」


ぼんやりと目を開けた花乃に薬を飲ませながら、明美さんが私を見て言った。


……口移しで飲ませたかったです…