花色の月


…残念な事に、光の部屋しか分からないんですよね。

もう少し月守旅館の中を熟知しておくべきだったと、今更後悔しても始まらないんですが。



「光、起きてますか?」



軽く戸を叩きながら、小声で呼んでみた。



「はい?」


寝る前に一杯やっていたのか、雑多な部屋と眠そうな光からはアルコールの匂いがした。



「花乃が熱を出してしまって……他の方の部屋が分からないんので……」


「あー、やっぱり出ちゃいましたか。
えっと……取り合えず明美んとこに行きましょう」


花乃の体があまり強くないのは、皆が知っているので説明は不要なようです。

光の後をついて行くと、直ぐ近くの戸を叩いている。


…近すぎやしませんか?


花乃もしばらくは、この部屋に居たんですよね…

兎に角、光が来る前で良かったと胸を撫で下ろしました。



「うるさいなぁ、なんなん?」


「若女将やっぱり熱出したんだって、薬ある?」


「あら、やっぱりなぁ。あっ、小桜の間に?」



私の方を見ながら眠そうに瞬きを繰り返す明美さんは、どうやらもう寝ていたようだ。



「すみません、お休みのところ」


「あー、気にせんといて。花乃の為なら痛くも痒くもないしなぁ」



それでも眠そうに目を擦ると、光の雑多な部屋とは違って可愛らしい小物が、キチンと並べられた部屋で、引き出しをゴソゴソとし始めた。



「うちも一回行くわぁ。ただの風邪やと思うんやけど」



「えぇ、私が不甲斐ないばかりに…」