花色の月


「あのね……今さらなんだけど…」


「なんですか?」


「桜ちゃんだから電話に出たんじゃないよ?
…これ以上那月さんに面倒な女だって思われたくなくて逃げたの。それが…たまたま桜ちゃんだったの」




今、言うことじゃないかも知れない。

でも、あたしの中で那月さんの優先順位は一番なんだよって言いたかった。

逃げたり傷付けたりした癖に、虫が良いかもしれないけど、やっぱりあたしは那月さんなの。

那月さんの居ない世界では、あたしは生きられないの。




と、口に出して言えたら、那月さんにも伝わるんだろうか……

でも、それを言って引かれたらどうしようって思って、自分が傷付きたくないずるいあたしは最後まで言えなかった。



「私と桜介の二人が溺れてたら、どっちを助けますか?」



どこか面白がるような顔をする那月さんに恨めしげな視線を送った。



「…あたしが泳げないの知ってる癖に……」



溺れて那月さんに助けて貰った時から、怖くなってしまって川には入って居ない。

すっかり水が苦手になってしまったあたしは、学校の水泳の授業が苦痛で仕方なかった。



「今度のデートは海にでも行きましょうか?」



「あたしが泳がなくても良いのなら?それに……」



水着を着ると、胸の無さが露になって嫌なんですけど。



「そうですね、花乃がナンパされまくるのを牽制してたら、それだけで日が暮れそうです」